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手術方法の提案

更新日:2021年11月29日

点眼麻酔で上方からの角膜切開の場合を提示します。

1.散瞳

2.麻酔

3.消毒、ドレーピング

4.前房穿刺

5.OVD粘弾性物質注入

6.CCC

7. Hydro dissection, Delamination、核の回転

8. 超音波チップとフックの挿入

9. 核分割

10. 核の破砕吸引(phacoemulsification)

11. 皮質吸引

12. OVD注入

13. IOL挿入

14. OVD吸引、除去

15. Hydration

16. 眼圧調整

17. 消毒、眼帯


上記ステップから省略できるものを以下に示すとともに、簡単な術式を提案します。


このステップの中で省けるものはあるでしょうか?

1-3の工程は省略できないステップ。

4.前房穿刺も省略できないが手技に選択の余地があります。

角膜創口一箇所とサイドポート二箇所またはサイドポート一箇所の二択であるが、サイドポート一箇所を推奨します。

必要のない穿刺は減らすことで手術侵襲は軽減されかつ合併症の発生も抑えられると考えます。穿刺中に眼が動いて角膜が大きく切開されるような合併症も起こる可能性があり、穿刺数は少ない方が良いと考えます。しかし、逆手による操作になり初心者にはハードルが高い操作と感じますが、利き手主導で操作を行えば直ぐに慣れて行きます。

初心者には強角膜3面切開を推奨する研修施設も多いですが、結膜切開、強膜切開、トンネル作成、前房穿孔とステップが多段階でステップ毎に合併症を生じる危険があるため角膜一面切開を推奨します。角膜切開は穿刺の1ステップだけであり簡易な手技です。(どうしても強角膜切開に拘るのであれば強角膜一面切開でもよろしいと思います。)2.4mmの切開で有れば仮令初心者であっても器具の出し入れは問題なく行うことができます。また、両者で術後感染症の発症率に大差はなく敢えて強角膜切開を選択するメリットもないと感じます。トラブルが起きた場合は強角膜3面切開に利がありますが、後囊破損の発生率は1%前後のため低頻度のトラブルに備えるより、トラブルが起こり難い手技をマスターする事の方に意義があると私は考えます。更に結膜切開を加えると患者さんは術後必ず異物感を訴え、結膜下出血による赤目をいつまでも気にします。現在の白内障手術は、痛みもなくあっという間に終わるストレスが殆どない手術となっている為、手術時間が10分以上で術後も異物感や充血などが有れば患者さんにとっても驚かれると思います。合併症の増える手技は止めるべきでしょう。

こうした発言をすると、研修施設の指導医に叱られるかもしれませんが、眼科手術に慣れるためだけに3面切開を推奨するのであれば、それは全く間違った考えです。練習は、模擬眼や豚眼で行えば良いことで、患者さんの眼を使っての不必要な練習行為は即刻止めてください。私も、強角膜3面切開の教育に携わり研修医が起こした数知れない合併症を経験してきました。角膜一面切開の方が圧倒的に合併症は少ないです。合併症が発生し易く難しい手技を研修医に強要するのではなく、簡単で合併症が起りにくい手術手技を研修医にもご指導ください。豚眼では人の強角膜切開の感覚は再現できませんが、シリコンラバー等素材を工夫すれば人に近い感覚は経験できるでしょう。また、角膜移植片作りに積極的に参加すれば実際の強膜切開の感覚は経験できます。


5.省略できない手技


6.CCCも省略できませんが、手技に選択の余地があります。

チストトームか前嚢鑷子かの選択が必要です。

チストトームは、安価で汎用性がありますがフラップを作成後CCC完成までに何回前嚢に触れ操作するのでしょうか?また、チストトームの先端は水晶体表面の数マイクロの範囲でしか前嚢を扱えません。更に、チストトーム先端と切開線を頻繁に確認しながら手技を行う必要がありとっても難しい手技です。だから初心者は、このステップのマスターに時間が掛かかり、自信を喪失して行く様に感じます。加えて、徹照が効きにくい症例では切開線を確認し難い上にフラップの操作のために切開線から何度も目を離す必要があり切開線を見失う確率が上がります。最近ではこうした症例に前嚢染色を行う様ですが、ステップが増えることと薬液を使う事の合併症も危惧されるため不必要な手技は止めましょう。また、チストトーム使用時に切開線が流れてしまったら前囊鑷子を使う術者が殆どです。最初から前嚢鑷子で良いのではありませんか?

一方、前嚢鑷子は高価で多くを購入することは困難ですが、フラップを把持してから3-4回程度のフラップの持ち替えだけでCCCは完成できます。切開線のみを確認して鑷子先端は間接視野で確認すれば問題ありません。何故なら、チストトームと違い鑷子は前房内を上下左右に自由に動かすことができ、ほぼ角膜内皮障害防止のみに注意すれば良いからです。両者を比較すると行程が少なく簡単なのは圧倒的に前嚢鑷子と考えます。

はじめて前嚢鑷子を持った術者でも熟練した助手がフラップを引っ張る方向を指示することで十人中九人はCCCを成功させることが可能で、前嚢鑷子は簡単な手技と言えます。フラップを引っ張る方向さえ間違えなければCCCは簡単に完成できます。徹照が効き難い症例であっても、前嚢の持ち替え回数が少ないことと、切開線の確認のみに注力すれば良いことで切開線を見失う頻度はかなり低いです。


7.Hydro Dissection(ハイドロ)

核回転時や皮質吸引時のチン小帯への負荷を軽減するためには必須の手技です。しかし、一部の症例では禁忌であり必要のない症例も存在します。後囊の線維化、後部球状水晶体、外傷性後囊破裂、高度の後囊下混濁、前嚢に亀裂がある症例等では、この手技により後囊破損を起こす危険があります。こうした症例では、ハイドロの代わりにDelamination(デラミ)を行うことが推奨されます。


デラミの目的はなんでしょうか?

核とエピとの分離と核の全体像の把握のためですが、その目的は本当に達成できているのでしょうか。数回のデラミによりエピは何層にも分離される事とGolden ringが数輪形成されること(ビデオ)を皆さんは経験からご存知と思います。



一方、解剖学的に核とエピは連続的に移行するためその境界を厳密に決定する事は不可能です。臨床的には核から層状のエピが剥離できなくなった場所と考えると分かりやすいですね。フックを使うと硬い核と柔らかいエピの境界は簡単に同定でき、その層間にフックを挿入して行くとエピは自然に剥離して行きます(図6)



こうしてエピが剥離された真の核は中心部と赤道部でその硬度にエピと核程の違いはなく核処理に於いても超音波チップが簡単に突き抜ける事はないと考えられます。しかしデラミを行なった場合、Golden ring の出現部位と核の赤道部とは一致しない事が殆どです。このため、Golden ring の部位を赤道部と信じて手術を行うと、そこは高率に柔らかいエピであり、超音波チップの突き抜け事故の危険が有ります。以上から、デラミは本当に必要なのかと言う疑問が湧いてきます。デラミにより、術者を混乱させ合併症を増加させているのではないかと疑問さえ浮かんできます。

それではデラミを行わないことのメリットはなんでしょうか?一つはステップを減らせる事でもう一つは核破砕時にエピを厚く残すことが可能という事です。厚いエピは核破砕時の後囊上昇を抑制して核処理時の後囊破損事故を予防できることが最大の利点と考えます。逆に、デラミを何回も行うと、エピが幾層にも分離して核の吸引時に分層化したエピは核処理とともに吸引されて行きます。そして、最後の核片の処理時にはエピは全て吸引されていて後囊の上昇予防効果が全くなくなり、サージ等による後囊の誤吸引を誘発することがあります。また、エピが厚く残る事で後嚢の上昇を抑制し安全で安心感のある核破砕が可能です。また思いがけなく核破砕が突き抜けてもエピが後囊吸引に引き続く後嚢破損を抑えてくれます。

熟練術者の起こす後嚢破損は、殆ど核処理時に起こります。その原因は、予期しない後嚢の上昇とそれに引き続く後嚢の超音波発振を伴う誤吸引です。熟練術者であるため、この様な合併症に対して十分な予防策を講じていても起きてしまうという意味です。現状のPhaco machineでも、この合併症を完全には防止できないため、エピを使って予防する事にしたわけです。核処理時には、やや強めの超音波発振を行わないと核の破砕と吸引は行えないため、この工程で後嚢破損が起こるわけです。核処理工程時に、後嚢の思いがけない急上昇を抑制できれば安心して効率的な超音波の発振と吸引が可能になるので、エピを厚く残す必要があります。 エピを厚く残す欠点としては、後嚢の確認がやや困難で確認できるまでは慎重な吸引操作が必要なことです。また、フレアーチップの開発以前で吸引圧の低かった時代には厚く残ったエピの処理に難渋することもありましたが現状のPhaco machineであれば厚いエピも吸引だけで処理可能です。しかし、Alcon社の45度チップを使っている術者は吸引圧を調整しないと厚く残ったエピを上手く処理できません。吸引口が大きいためエピの保持が少し難しいです。30度チップであれば問題なく簡単に処理出来ます。


7.核の回転

必須ではありませんが、ハイドロの直後に核の回転を確認することで以後の工程が施行しやすくなるでしょう。また回転できない場合は、ハイドロを追加して以後の工程の安全を確保する必要があります。逆に、不必要なハイドロを行っている術者が非常に多く、最小限のハイドロで核の回転を確認することは合併症の減少にも繋がります。即ち、過剰なハイドロの合併症として、capsular block syndrome、核の脱臼(元に戻すには必ずチン小帯に負荷がかかる)、前嚢の亀裂、後囊破損、徹照光の減弱があげられる。このため、最小限の水量で効率よく行う必要があります(ハイドロ参照)。シリンジを強く押して大量に灌流液を注入しなさいとか、核が脱臼するくらい灌流液を注入しなさいとか、場所を変えて何回も注入しなさいと指導医に教えて貰ったと思いますが全て間違っています。少量注入するだけで十分に効果があり簡単に核は回転します(ビデオ ハイドロ)



また、徹照光により術者は手術に有用な多くの情報を得ているため、この光が減弱することは手術を難しくもします。なお術中核が回転しない最大の原因は、ハイドロではなく核に回転力を加える手技が難しいためです。読者の先生方も、あんなにしつこくハイドロしたのに全然核回らなかったという経験をよくされると思います。核に回転力を加える手技をマスターできれば、ハイドロは後囊前面に水流が確認されるだけで十分と理解できるでしょう。簡単にマスターできる方法は後述します(Hydro Dissectionと分割フックの持ち方の解説)。


9.核の分割は安全で効率的な手術のためには必須の工程です。


核分割方法は、Divide and Conquer法とPhaco Chop法に大別されますが、工程が少ないのはPhaco Chop法と考えます。しかし、Phaco Chop法は難易度の高い手技と考えられていて敬遠されていますが、水晶体の解剖と手技のコツを正しく理解してからマスターすれば簡易な手技と考えます。


Phaco Chop法による核分割


研修施設では、殆どが初期研修にDivide and Conquer法を採用しています。何故でしょうか?Phaco Chop法と比較して簡単で誰にでもできる手技と信じられているからなのでしょうか。また、教える側もこの方法しかマスターしていないからでしょうか。両者とも、広く一般に広がってから30年ほどが経ちます。この間に、IOLや機器の進化により極小切開無縫合手術になり、核処理も効率的かつ安全になりました。しかしこの間に、核分割吸引法にどれだけの進歩があったでしょうか?依然Divide and Conquer法を使う術者が多数を締めていて、有効吸引圧、hold ability、follow ability、安全性が格段に向上したPhaco machineの性能を十分には生かしていないと感じます。適切な溝堀には何回チップを前後に往復させ超音波をどれだけ発振すれば良いのでしょう?核とエピ、皮質の境界にはっきりしたものがないため溝堀だけで破嚢することも初心者にはありがちな合併症ですね。二分割後核が回転できない初心者も非常に多いですね。4分割、8分割って簡単ではないですね。核の大きさは症例毎異なっていますが、溝の深さの最適化の判断は難しいですね。

それでは、Phaco Chop法を行わない術者にその理由を尋ねると、チップの打ち込みでそのまま後嚢を突き破りそうだから、チップによる核の把持が難しいから、水晶体を過度に下方に押してしまいチン小帯に負荷をかけてしまう、それとフック先端で嚢を破りそうだからと回答する術者が多いですね。

Divide and Conquer法でもフックや超音波チップの使い方は同じだと思います。打ち込むチップの深さや超音波発振強度の調整、フットスイッチやフックの扱いを間違えなければ両者に大きな違いはないと考えます。

Divide and Conquer法を教えるにあたって一番難しいのは、溝を何mm掘れば良いかの指標がないことです。即ち、核の大きさや硬さは患者さんにより千差万別であるため、一律にチップの直径の2倍の溝を掘ると決めたとしても核が割れない症例が出てきます。この場合、分割の手技が問題であるのか、更に溝を掘れば良いのかが指導医にも判断できない事があります。このため患者さん毎の指標が必要と思われますが、現状それは存在しません。加えて、核とエピの境界は連続的に移行するため割面からも境界を同定することはできません。逆に、境界が存在しないため水晶体全体が核と誤解しやすいとも言えます。このため初心者はエピを核と誤解して強い超音波を発振してしまい後囊破損事故を起こすことがよく有ります。一方、筆者が提案する核を同定して核を破砕吸引する術式ではそのような指標は不必要で術中にエピに埋もれた核を掘り出し、核の位置や大きさを目からの情報により判断して手術を行えば良いだけです。


核の吸引把持が困難


超音波チップは左手操作の補助を行うだけで、核の固定までは基本的には必要のないのがPhaco Chop法です。初心者は、核の分割方法を正しく理解できていないため、フックで硬い核を下方に押すことで水晶体全体を押し下げてしまい核の把持が更に困難にしてしまっています。このため、Phaco Chop法ではチップの核深部までの刺入と最大吸引による核の固定が絶対に必要と誤解されていると思います。しかし、核の赤道部と嚢の間にある、皮質やエピにフックを挿入して硬い核を避けることで核の下方移動は予防できます。その後、フックを核の赤道部のやや後囊よりに刺入させチップとフックとにより挟み込むようにすると核は簡単に半分に割れます(図7、ビデオ 核処理)







このように、核を押し下げないコツを掴めばそれほど難易度の高い手技ではありません。また、これまでの教科書で推奨される様にチップの核中心までの刺入や右足の微妙な吸引圧のコントロールをしながら両手で核を分割する手技は初心者には非常に難しいものです。しかし、上記のチップとフックによる挟み込む方法であればチップの深い位置までの刺入と右足の微妙なコントロールを必要としない手技で初心者でも核分割は可能と考えます。

また

核が大きい場合、チップを6時方向の深い位置まで挿入するのは非常に難しいと思います(図7参照)。また、連結棒(図19)によって核を下方に押し下げる原因にもなるため、4時方向での核分割を推奨します。


フックの先端で後嚢損傷を起こすかも?

水晶体の大きさ以上にかなり硝子体方向に突き刺さない限り後嚢破損は起こらないことは豚眼での実習で経験できるでしょう。また、水晶体は下方に凸の半円形ですから、フックを下方に押しても水晶体形状に沿って下方移動して後囊に引っ掛かる危険度はかなり低いです。このため、Phaco Chop法での核分割はフックを核の赤道部よりやや後囊よりに刺入し、フックを平行からやや上方に動かせば後囊に引っかかることは決してありません。


核が割れない?

水晶体線維走行に沿ってフックとチップ先端で挟み込むように左手を動かせば必ず割れます。核が割れない原因の殆どは、核ではなくエピを核と思って割っているからです。核を同定して挟み込むように核を割りましょう。

核分割時にDivide and Conquer法同様に、チップとフックを左右に広げる動きをする術者がいますが、非常に核が硬い場合以外は全く必要ありません。水晶体線維走行に合わせてフックを刺入できれば、綺麗に半分に割れます。Chop法に慣れていない術者は、チップとフックを左右に開きながら分割することでより簡単に核が分割されると信じている様ですが左右に開く必要はありません。フックの先端とチップの先端で挟み込む感じでフックだけを動かし、チップは固定しておくことです。フックとチップによる挟み込みが完成して核に亀裂が入る前に、チップとフックを左右に動かしてしまうと、チップで保持した核が崩れて核分割ができないことになります。挟み込みながら左右に開く動きって簡単にできる術者は多くないですよ。単純に、挟み込むだけで良いです。手術工程は、単純なことの繰り返しから成り立ってます。手術は、個々の手技を単純化(簡単に)して、それを積み重ねることです。

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