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前置き

具体的な手術方法の提案の前に、初心者が起こしやすい合併症が人間の手足の動きの特性や白内障手術の特殊性に由来することを説明します。その後、水晶体の解剖とPhaco machineの特性について触れます。



これらは、手術を行うにあたり知っておくべき最低限の知識と思うからです。また、これから手術を始める術者にとっての素朴な疑問に答えてくれる教科書が存在しないと言うことをよく耳にします。このため初心者は、見様見真似で器具を持ち、何となく器具を使いながら手術をしているでしょう。初心者の素朴な疑問とは、器具の把持方法、力の入れ方、扱い方であったりします。既存の教科書には、顕微鏡下で観察できる手術手技についての解説ばかりが記述され、顕微鏡では見ることのできない手足の使い方や患者さんの体位についての解説が皆無と言っても良さそうです。本稿ではそうした部分に着目して解説を行いました。何故なら、初心者の合併症は顕微鏡下では見えない、即ち指導医が見ていない所での問題から発生する事が多いからです。

もう一つこの手術方法の提案に至った理由があります。Divide and Conquer法、Phaco Chop法が核処理方法として広がってから30年、極小切開白内障手術が汎用されてから20年になります。その間に、Phaco machineと手術機器の進歩には目を見張るものがあります。一方で未だ主要な術式は、Divide and conquer法です。Phaco machineは、核の吸引破砕効率と安全性能を発展させ、フットスイッチの繊細なコントロールにより、超音波発振のオンオフ、吸引圧の上下がタイムラグを気にする事なく使えるようにもなりました。この様に、手術機器の進歩にも拘らず術式の進歩が追いついていないのではないかと考えたからです。機器の進歩と術式の進歩は両輪をなすものであり、性能と安全性が向上した機器を最大限に活用する術式の進歩が必要ではありませんか?

最後に、術中合併症を起こす頻度が高いのはやはり手術初心者です。この為、初心者に読んで貰える様に分かりやすく簡単な記述を心がけ、重要事項は何度も繰り返し記載しました。また、教科書には載っていない手術器具の基本的扱い方、先輩の指導の誤り、合併症を減らすコツ、人間の手足の動きの特性等をたくさん記述しています。間違った方法で、幾ら手術を練習したり経験を積んだりしてもある一定レベルまでに到達はできますが、それ以上の進歩は望めません。ですから、白内障手術に必要な基礎的手技を身に付けながら症例を積んでいかれたら良いと思います。更に、手術指導医の先生方にも出来れば読んで頂き、初心者がどのようなことに悩んでいるかを知り手術教育の一助として頂きたいと思います。皆さんがこの手術解説書とビデオを観て手術技能を向上させ手術侵襲と合併症を減らして頂くことを願います。

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